においの記憶
昔
受験した某大学の課題で「『におい』についてあなたが思うことを書きなさい」
というのがあった。
詳しいことは覚えてないけど
視、聴、嗅、味、触の中で
なつかしい気持ちをリアルに刺激するのが嗅覚、つまり「におい」だ!というようなことを
稚拙な文章でなんだか最もらしく頑張って書いた。
事実それは
その当時も今も本当に思っていて、
街とか風とか人のにおいから湧き起こる懐かしさと、そこから辿る「においの記憶」って不思議なほど鮮明に私は思う。
それは視覚や聴覚の記憶だけでは辿り着けない深みへ誘っていく。
それは温かくて気持ちよい感覚の時もあれば、塞いでいたところに踏み込む少しこわい感覚だったりもする。
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さて
私は今日パンを焼いた。
りんごとレーズンが入っている。
雨の日はなぜこうも焼きたくなるのか。
それはそのシチュエーションで焼き上がるにおいが、大切な記憶だからだと気づいた今日。
焼き立てのあまい香りが部屋に立ちこめて
雨音を聴きながら目を瞑った。
英才教育にとんでもなく厳しい母と
その母がオーブンで菓子を焼く雨の日
その日はとても優しくて
わたしの好きな母
光が差し込まない一日中雨降りの冷える日は
焼き菓子やパンのにおいと共に
その過去に還る時間でもある
それが前までは少しこわくて
今では一番あたたかくて好きな時間
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